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札幌高等裁判所函館支部 昭和38年(ネ)68号 判決

控訴人(原告) 家久博

被控訴人(被告) 北海道知事

主文

原判決を取り消す。

本件(当審において追加した昭和三七年一月二二日買収処分の取消請求を含む)を函館地方裁判所に差し戻す。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三六年一二月二六日別紙目録記載の(一)の土地につきなした買収処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、さらに当審において訴を追加的に変更して「被控訴人が昭和三七年一月二二日別紙目録記載の(一)の土地につきなした買収処分を取り消す。」との判決をも求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり訂正、附加するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一、原判決事実摘示中控訴人の請求原因(二)の後段「しかしながら」以下を、「しかしながら、本件土地は右酒井が函館市農業委員会の非農地証明書に基づき所有権を取得した上、さらにブルトーザーで地ならししたもので現況非農地であり、これを控訴人が右酒井から買い受け所有権を取得したのであるから、被控訴人のなした買収処分は違法である。」と訂正する。

二、(証拠省略)

理由

(昭和三六年一二月二六日の買収処分の取消を求める旧訴請求について)

行政処分取消の訴は、処分の相手方でなくてもその取消を求めるにつき法律上の利益を有する者であればこれを提起することができるのであり、農地法による農地買収処分の取消の訴についてもこれを別異に解すべき理由はない。されば本件において、被控訴人のなした買収処分は訴外前川利秋を相手方とするものと解しうるけれども、控訴人に右処分の取消を求める法律上の利益があれば控訴人は右処分取消の訴を提起しうるわけである。

ところで控訴人の主張によれば、本件土地は非農地で控訴人の所有であるのに被控訴人はこれを農地で訴外前川の所有であるとして買収処分をしたというのであるから、果して右のとおりであるとするならば、本件買収処分はもとより違法であるというべきところ、違法な買収処分といえども取り消されない限りは有効とされて真実の所有者たる控訴人が所有権を喪失する結果となるのであるから、控訴人はその取消を求めるにつき法律上の利益を有するというべきである。もつとも、本件買収処分は当然無効であると解せられないこともないが、無効な処分に対してもその形式的な取消を抗告訴訟の形式で訴求することは当然許容さるべきところ、当然無効であるとしても形式上は買収処分として存在しているので実際上有効な処分と同様に取り扱われ、登記簿上所有名義人となつている控訴人が国から「農地法により買収又は売渡をする場合の登記の特例に関する政令」第二条による承諾を求める訴を提起され、あるいは売渡処分を強行される等のおそれがあり、かくては所有権に関する紛争の解決を徒らに将来に持ち越し紛争を複雑化する結果となるのであるから、控訴人としてはかかる事態を避けるため形式上その取消を求める法律上の利益を有するというべきである。

されば原判決が、控訴人は本件買収処分の相手方でなく、また右処分は当然無効で控訴人はこれにより法律上なんら不利益を受けないから、控訴人の本件訴は不適法であるとしてこれを却下したのは不当であり、取消を免れない。

よつて民事訴訟法第三八七条、第三八九条により原判決を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととする。

(昭和三七年一月二二日買収処分の取消を求める新訴請求について)

なお本件新訴請求については、いまだ請求原因事実の主張がなく、従つて訴の追加的変更として許さるべきものか否か判断しえないが、その許否等の審理は旧訴の手続においてなさるべき性質のものであるから、本件は旧訴差戻の対象の中に当然含まれるものと解すべきである。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 雨村是夫 神田鉱三 三好達)

(別紙目録省略)

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